森のなかの標本室

不思議な標本を作るアートユニット「飴色団栗研究室」にまつわるちょっとしたおはなし

苔と腐蝕と

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以前撮影した写真だが、錆びて朽ち始めた鉄製の側溝の蓋の周りに、ぽこぽこと丸い苔がたくさん生えている。

 

私はこれを見て「もこもこの生きものがビスケットのように鉄をかじっているみたいだ」と思ったから撮影したわけだが、まあそれは置いておくとしよう。

 

「森」にも、これと似たもこもこ生物が数種類いる。毬藻のような丸い植物から、もこもこを掻き分けると顔がある動物のようなのまでいる。研究所に生物学者はいないのだが、入り浸っている博士の友人の中にそれらしき人物がいるので、いずれ詳しい話を聞いてみようと思う。

妖精の棲家

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貝殻に作られた妖精の巣……もとい妖精の棲家である。貝殻は人気の物件で、水辺故かよく見ると苔生している。

 

煉瓦造りのような見た目から「巣」ではなく「棲家」と呼んでいるが、「家」という言い方をしないのは、妖精の生態にある。

 

彼等は確かに羽の生えた小さな人のような見た目をしていたりするが、基本的には何も考えておらず、煉瓦の建物を建てているようで、その実アリが蟻塚を築くのと大して変わらない。勿論魔法を使ったりもしない。因みに体長は触角込みで3ミリ程だ。

 

ただ、普段何も考えていないからといってそこまで知能が低い訳でもないのだが、そのあたりの話はまたいずれとしておこう。

光る飴

飴団栗は、差し込む光の角度や強さによって、稀に内側から輝いているような光りかたをする。発光する性質はないし、中に電球が仕込んであったりもしない。薄暗い標本箱の中でキラリと光を発する様を見つけた時は、中々に運が良い。

 

飴団栗はその名の通り飴であるからして、ブナ科の堅果であるどんぐりと違って突然中から虫が出てきたりはしない。ただ蟻が喜んで運んでいることは多々ある。

 

研究室にはいくつかの飴団栗が保存されているが、部屋が蟻だらけになっても困るので、博士の技術で食べられないように加工してある。無論樹脂に封入してあるのでもなく、なぜかなんとなく飴ではなくなっているのだ。博士のへんてこ機械については私も良くわかっていない。

 

これは余談だが、「どんぐり」というのは正式な植物の名前ではなく、ブナ科の果実、いわゆる「どんぐりっぽい」木の実の総称である。しかし「飴団栗」は本名だ。アメ科アメドングリ属アメドングリ。少々間抜けな名前だが、私が名付けたのだから仕方ない。

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試験管立て

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新しい試験管立てが完成した。以前のものは四角い箱に突き刺さっているようなデザインだったが、標本によっては横のラインが邪魔になるのと、一本用のものが多少繊細さに欠けるため、新しくより繊細なデザインが開発された。

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素材は真鍮と紫檀である。今回は試験管が少し浮いているのが特徴だ。木製の台座は右の研究員が、金属部分は左の研究員が制作している。

 

今回はシンプルな形にしたが、台座部分を漆塗りにしたり、金属部分を透かし彫りの入った凝ったものにしたりと、応用もできそうだ。

 

そのうち暇な時にでも試作してみたいと思う。

 

番外編:展示感想─超絶技巧とアートブック

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ついこの前の土日を使って、週末雑貨屋【海福雑貨分室】さんへ作品の納品に行って来たのですが──ありったけのロマンが詰め込まれた素敵なお店ですが、そのご紹介はまたいずれ──せっかくなので東京で驚異の超絶技巧展(三井記念美術館)とアートブックフェア(THE TOKYO ART BOOK FAIR 2017)を見てきました。今日はそのレポートです。

 

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出来の良い手仕事の作品に「本当に手作り?」「機械で作ったみたい」という風な褒め言葉をかけているのをよく耳にしますが、極めれば機械を遥かに凌駕して人の手が頂点に立つ、というのがよくわかる展示でした。素人が拾ってきたものをスキャンして3Dプリンタで出力するだけでは決して作れない、精緻で美しいバランス感覚を堪能して頂きたいです。

 

図録もなかなか素敵な出来でしたが──これはどの展示にも言えることですが──やはり持ち帰って見返すと実物とは印象が違うものが多いです。もちろん写真は写真で独自の美しさがあるものですが、やはり両方見られるなら両方観ないと勿体ない。最近特に多いですが、写真OKの展示でも撮影に夢中にならず、きちんと自分の目で観たいものですね。

 

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研究室でもアートブックを作っているので、勉強も兼ねてイベントに行ってみました。書籍、紙、印刷、インクなんかを合言葉に、美しい品が勢揃いしています。うちのアートブックもこだわって作ったつもりでしたが、まだまだ出来ることがあると身にしみて分かりました。

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見回す度に新しいアイディアが湧き上がってくる楽しい空間でした。私としては、個人作家が出店しているZブースが圧倒的に面白かったと思います。

 

アートブックの方はもう終わってしまいましたが、超絶技巧の方はまだかなり会期が残っていますので、お近くの方も遠方の方も是非。

標本室の朝

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曇りの日の朝日というのは、独特の色をしている。どんよりとした雲の色と清々しい朝の光の色が混ざり合って、憂鬱なようなそうでもないような、散歩をするよりは読書をしたい、そんな色になる。

 

片付け上手が一人もいないため、標本室も研究室もいつも標本がそこらに散乱している。とても人を呼べない有様である。

適当にその辺りを押し分けて、クッションを並べ、本を開く。

 

部屋に響くのは本のページを捲る音だけ。

植物にはモーツァルトを聞かせると良いなんて言うが、標本には本のページを捲る音を聞かせるのが良い。紙に鉛筆で文字を書く音でも良い。ただボールペンでなく、鉛筆でなければならない。できれば鉛筆削りでなくナイフで削ったものが望ましい。

 

そうすることで、標本はよりひそやかに、より詩的に育つのである。

彼岸花

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彼岸花」というより、「草花火」と呼びたい。

 

人によってはこの花を冥界の入り口に咲く花のように扱うが、私はこれを、見つけると嬉しい可愛い花として認識している。タンポポみたいにどこにでもあるやつではなくて、ちょっとレア度の高い野苺とかの仲間だ。

 

太くてしっかりした茎がにょきっと伸びて、先端になんだかぴょんぴょんしたテンションの高い花が咲いているのが良い。鼻を近づけても草のような香りしかしないのもまた可愛い。

 

「艶やかな花」というよりは「でっかい野草」という感じなのに、その花はよく見ると工芸品のように整った美しい形をしている。

 

思えば、この品種改良の跡が見えない「美しい野草」という立ち姿が、人を惹きつけるのかもしれない。

 

彼らは中国のあたりからやってきた帰化植物と言われているが、確かにこんな花が中国の自然の中に野生で生えていると考えれば、たまらなく絵になるような気がする。

 

いつか中国の彼岸花を見る旅に出ても良いかもしれない。