森のなかの標本室

不思議な標本を作るアートユニット「飴色団栗研究室」にまつわるちょっとしたおはなし。毎週金曜日夜9時ごろ更新。

秋と芸術と

今週のお題「芸術の秋」

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「標本」に纏わる芸術活動を始めたのも、また秋であった。

 

それまで私達は「研究員」ではなく「工芸家」で、大学で学んだノウハウを元に「生活を彩り豊かにするもの」であるとか「ひとに喜ばれるもの」「便利で使いやすいもの」とか、そういうことについて考えを巡らせていた。

 

疲れた、と言い出したのはどちらであっただろうか。

 

美術の学校という場所は、多かれ少なかれ作品に「先生」の指導が入る。「これじゃダメ」であったり「もっとこうしたほうがいい」であったり、確かに言う通りにすると良いものが出来るのだが、それは同時に自分の芸術が「良いもの」に縛られるような気持ちになった。

 

別に、良いものでなくたって良いじゃないか。

好き勝手楽しいことをやってみよう。そうしよう。

 

そうやって始まったのがアートユニット「飴色団栗研究室」なのである。

 

「研究室」の文字が表しているのは、「楽しいこと」であるへんてこな植物や何かの研究だけでなく、これでも芸術足りえるだろうか?という研究でもあるのだ。

 

それが3年前の秋のことであった。

 

鮮やかに色づいた葉が、古い役目を捨てて散っていく。空は高く、風は冷たく、物悲しい中にも新しい実りがある。芸術の秋、なんて呼ばれるのは単に気候が良いだけではなくて、過去の自分に区切りをつけ新しい表現に挑戦するのにも丁度いい季節なのかもしれない。

試験管標本の作り方

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鉛筆の先を尖らせて、細く切った紙に学名やら採集日やらを書きつける。手首の角度がどうにも不自然なのは左利きの宿命である。

 

鉛筆の芯はやたら長く出ている。円錐型に削られた木の部分から芯だけが1センチ近く伸び、その芯の先端だけが小さな鉛筆のようにまた円錐型に尖らせてある。これは研究員が子供時代、美術の学校でデッサンを習っていた時の名残である。

 

紙に必要事項を書き終えた研究員は、そこに慎重に標本を貼り付ける。標本の固定の仕方は様々あるが、今回は木工用の接着剤を使う。「木」工用というだけあって、乾燥した植物とは中々に相性が良いのである。

 

接着剤が硬化するのを待った後、標本が貼り付けられた台紙をピンセットで試験管の中に滑り込ませる。紙とガラスが擦れてシュッと音を立てる。用意しておいたコルク栓を押し込めば完成だ。

 

試験管とはその名の通り試験するための管であって、こういった標本を入れるようなものではないのだが、それを「美しいから」の一言で躊躇いなく入れてしまうのがこの研究室の特徴である。

 

科学者としても芸術家としても不完全だが、そのバランスが面白いのだと言えなくもない、かもしれない。

博士、聞いてます?

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──そしてこれがその、標本箱に見えるアートブックなわけです。

──その前に、アートブックとは具体的に何を指すのだね。

──単純に画集のことを指すこともあれば、本の形態をした芸術作品のことを指すこともあります。

──本の形態をした芸術作品。

──ケルズの書とか、絵巻物とか、アートとしても価値があるでしょう。

──ほう。

──うちの場合は「作品集であり、それ自体も作品である」という位置付けですね。

──ですが、問題があります。

──なんだね。

──アートブック、という言葉の響きが気に入りません。カタカナで書いた時の字面も。

──そうかね。

──何か別の名前を付けたいのです。

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──博士、聞いてます?

──ふむ。この写真は良いな。

──ええそうでしょう。次は紙質にもこだわろうかと。それよりアートブックに代わる名の案ですが

──この写真はどこで撮ったのかね。

──その辺の森です。それはそうと

──これは。

──本があるといいかなと思って置いたバラの育て方の本です。内容に関連性はありません。

──ふむ。それで、なんの話だったかな。

──……また今度お話しします。

標本箱の種類─蓋付き

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引き出しの隅に置いておくのにこれほど適した箱も中々ない。

 

木の箱に木の蓋。もちろん板が乗せてあるだけではなく、きちんと嵌るように細工されている。

 

丁寧に作られてはいるが、素材もつくりもさほど高価なものではない。ショウケースに入れて置くには何かが違う。やはり引き出しの中に置いて置くのが安心できるのだ。

 

蓋には少し大きめのラベル。引き出しに放り込んではや数年、この箱何だっけ?と忘れてしまっても、何が入っているか一目で分かる。

 

大きさは数種類あり、パズルのように並べるとそれはそれでまた美しい。

 

「素敵なものを手に入れた。誰にも触られないよう、引き出しの奥の一番良いスペースにいそいそとしまったは良いが、日常の視界から外れてしまったそれはあっという間に記憶の彼方。しかし、確かにそこにずっとあって、再び蓋が開かれる時を静かに待っている」──というような感じがお好きな方にオススメである。

標本箱の種類─紙箱いり木箱

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木箱の中が紙箱で仕切られている標本箱である。

 

仕切りのある標本箱のいうのは往々にして仕切りも木で作られているが、時にはこうして、引き出しの中をお菓子の箱で区切るように紙箱で仕切ってみるというのも良い。木枠よりもずっと薄く、繊細で、風合いもまた違った良さがある。

 

写真の紙箱は結構小さい方で、長い方の辺──ぱっと見正方形に見えるが微妙に長方形なのだ──が3.7cmと、親指と人差し指で摘んで扱うのに丁度良い。

 

ボール紙、クラフト紙、パラフィン紙。どんな紙を使うかで印象もガラリと変わる。

 

研究室の標本箱は自家製だが、作りに拘らなければ小さな木箱なんてものはわりかしどこででも安く手に入る。

 

あなたには好きな紙があるだろうか。風合いの気に入った紙に展開図を描いて、切り取って箱を組み立て、道端で拾ったコスモスの種なんかを入れて、ラベルを貼って木箱に入れる。

 

心が疲れたなと思った時は、そうして遊んでみるのも面白いのではないだろうか。

標本箱の種類─額縁風

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壁にかけるのにこれほど──と始めたいところだが、これは壁に掛けられるようにできていないのだ。一体何故だろうか。それはこの箱が部屋や壁を装飾するものではなく、ただ標本を引き立たせる為だけのものだからである。

 

写真の箱は黒に近いこげ茶に金という取り合わせだが、その色合いは当然中身によって変わる。薄ぼけた冴えない茶色もあれば、艶やかな赤茶もある。背景の色も、黒茶白新しい紙古い布と標本ごとに差し替える。

 

全ては標本の美しさを引き立たせるためである。部屋の壁の雰囲気なんぞ知ったことではない。

 

額に入った絵画のように標本を眺めたいが、それは決して自分の部屋に飾るとカッコいいからではない。大切なのはものとしての美しさ。私は純粋に標本に魅せられているのだ──そういう人にオススメの箱である。

FP(フォレストポイント)

今週のお題「私の癒やし」

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ありきたりかも知れないが、私にとって癒しといえば森である。

 

ゲームなどでは自らの状態を数値化したものとしてHP・MPなどという表現があり、それはどうも体力や精神力の残量を示しているらしいが、私にはそれに加えてFP(フォレストポイント)という項目が存在している。と自分では思っている。

 

森に行くと増加し、雑草を愛でても増加し、アスファルトの地面を歩けば減少し、乗り物に乗るとゼロになる。

 

FPが増減する感覚はどうにも言葉で表しにくいのだが、比較的「癒される」「疲弊する」というのが近いのかもしれない。

 

私のMP(精神力)は読書や芸術鑑賞、美味しい食事などでも満たされるのだが、それとは全く別個に、森というものは心の奥深いところのなにかを癒す力を持っているように思う。

 

考えてみれば、私は自身の芸術活動において、他者のMPではなくFPを満たしたいのかもしれない。

 

少し湿っている澄んだ空気、土と葉と水の香り、金と緑がキラキラと混じり合った透明な光。静かに生きる植物にぐるりと囲まれる感覚。

 

休んでいるはずなのに癒されない。あなたもそんな時は森に足を運んでみてはいかがだろうか。