森のなかの標本室

不思議な標本を作るアートユニット「飴色団栗研究室」にまつわるちょっとしたおはなし

採集鞄の中身

今週のお題「カバンの中身」 我々が採集鞄と呼んでいる木製トランクは、冒険好きにとっては中々魅力的なものが詰まっていると思う。 例えば ・標本採集には欠かせない紙の箱 ・その場で薬品を使った検査を行ったり、小さいものをとりあえず放り込んでおいた…

標本箱の種類─紙箱

もっともデリケートな表情を見せるのが、紙の箱である。 背景に紙が貼ってあるにしろないにしろ、木製の縁というのは存外インパクトが強い。 その重厚さが良いところでもあるのだが、例えばタンポポの綿毛のようなか細く小さなものをひとつ入れたところで、…

標本箱の種類─紙背景

さて、今日は紙背景の標本箱について解説しよう。 たくさん並べるほど良い板背景の箱に対して、白い壁の部屋にぽんと一つ置いても負けない存在感を持つのが、紙張りの標本箱である。 箱の中の余白が美しく見えるため、シンプルで上品なレイアウトが可能であ…

標本箱の種類─板背景

飴色団栗研究室の標本箱は、現在大きく分けて3種類ある。 ①背景が板の標本箱 ②背景に紙が貼られた標本箱 ③紙製の標本箱 今日はそのうちの一つ、板背景の標本箱について説明しよう。 背景が板の標本箱は、何よりも箱の中に大きな余白を作らないことが重要で…

真夏の早朝

蝉の声もまだ聞こえない朝の時間帯。青っぽい匂いのする爽やかな空気。日差しはキラキラと暖かいのに、夜の間に冷やされた地面はまだひんやりとしている。 草むらの中に、露草の生えた妖精の棲家がひとつ。中はまだ寝静まっているようで、何かが動く気配はな…

妙な植物のスケッチ達

フィールドノートというか、スケッチブックというか、見つけたものや気づいたことをさっとメモするノートである。 文庫サイズのノートに、へんてこな絵やメモがしこたま書き込まれている。 写真は、先日紹介した歌鳥である。 まだ実が青い時の様子が書かれて…

歌う小鳥の種

森の中にも、特に風通しの良い場所がいくつかある。そういうところで、風の強い季節に時々聞こえる音がある。 一つひとつはか細い笛のような音だが、それと似たような音が微妙に音程や音量を変えながらいくつもいくつも集まって、鳥の群れが一斉にさえずって…

研究所と研究室

この辺りで研究所、研究室、標本室などの表記の違いについてまとめておこう。 ○研究所 「博士」の研究所。名称は「樫研究所(かしのきけんきゅうしょ)」 所属しているのは博士と右の研究員、左の研究員の3人だけ。 ただ、博士の趣味仲間(遺跡で発掘した変…

標本室

引き出しを開けると、そこにはなんだかわからない変なものがたくさん詰まっていた。 透き通った硬い木の実、小さい鳥の翼に根っこが生えたようなやつ、とげとげのナッツの中に透明な結晶ができているもの。 それらは全部標本箱の中に綺麗に収められていて、…

森の植物たち

我々が採集に行っている「森」 世界の奥の森とか、近くて遠い森とか、他にも色々な呼び名があるが、まあそれは置いておいて。 飴団栗、種花、星豆、そういった変な植物がたくさん生えている森のことである。 ──あなたはどうも、ここには変な植物しか生えてい…

幽霊の標本

今週のお題「ちょっとコワい話」 標本室を整理していると、時々何も入っていない試験管や標本箱を見つけることがある。 そういうものには大抵、細かいチリや気体といった肉眼では見えないものが入っている。「○○から発生した蒸気」というような比較的まとも…

夜の研究室3

昼と夜の研究室では見え方が違う、という話をした。 昨日の話は、考え方によっては違うとも言えるというような哲学チックで曖昧な話であったが、研究室にはもっとあからさまな昼と夜の違いもある。 その代表が、暗いところで光る培養器である。 正確に言うと…

夜の研究室2

昼の研究室と夜の研究室、あなたは同じものだと思うだろうか。 違う、という話を今日はしようと思う。 影の標本の記事を書いた時に、影とはそこに何かがあるのではなく、そこに何かが「ない」のである、という話をした。それは当然闇も同じだ。 光は波である…

夜の研究室1

蒸し暑かった昨日までとは打って変わって、涼しい夜であった。窓の外からは雨の音。時折雷が室内を照らすが、明るさの割に音は遠い。 そんな夜中の研究室なんてお化けのひとりやふたり出そうなものだが、生憎そんな怪奇現象が起きたことはない。 屋根を打つ…

透きとおる

透き通ったものに、心ひかれないだろうか。 明かりにかざすとキラキラと光を屈折させるようなもの、欲しくはならないだろうか。 人はなぜ、透き通ったものを美しいと感じるのか。光が反射するか吸収されるか透過するか、その違いでしかないではないか。 キラ…

お茶の時間2

左「コーヒー?」 右「うん、コーヒーかな」 左「私はアイスレモンティーにする。暑い」 右「あ、僕もそれがいいかも」 左「博士は何にします?紅茶キノコ以外で」 博「窓の前にエノコログサが群生しているのだが、お茶にできると思うかね」 右「エノコログ…

こどもごころ

流れる雲の形を見ているだけで幼い頃は随分と時間を潰せたものだが、今はなかなかそうもいかない。 刻々と形を変える雲を眺める楽しみは知っているが、全く同じように楽しいかと問われれば、そこまで夢中にはなっていないと答えざるを得ない。 こうして「感…

歯磨きアイスを好きになる

今週のお題「好きなアイス」 私も元はと言えば「歯磨き粉みたいな味するじゃん」派であった。アイスの中でも特に好き嫌いの分かれる味だろうと思う。そんな私がチョコミントをチョコミントとして好きになった経緯を、今日はお話ししようと思う。 きっかけは…

星豆

星雲のような色合いからそう呼ばれている豆である。普通に分類するとしたらインゲン豆の仲間になるのだろうが、「森」の植物には独自の分類法が採用されているため、似ていても、インゲン豆ではない。 霧の谷付近に多く自生しており、かの民はこの星豆を甘く…

機械都市遺跡

場所は森の中心から少し南西に行った辺り。曲がりくねって枝分かれした迷路のような構造を持つ広大な地下遺跡。それが機械都市遺跡である。 巧妙に隠された入口が森のあちこちに点在しており、今日向かった入口はマンホールのような丸い蓋が地面に埋まってい…

秘密結社

先日の会議の結果、 「我が研究室は、世界中の浮世離れした趣味人の間でひっそりと楽しまれる、秘密結社的ポジションにおさまる」 という目標が新たに立てられた。 なぜかって? なんだか楽しそうじゃないか。秘密結社。 アーティストなんてものは資格が必要…

霧の谷

ここにはいつも濃霧が立ちこめている。 谷の景色がぼんやりと幻想的に浮かび上がるような日もあれば、伸ばした腕の先が霞むような日もある。 だが、我ら霧の民にとって濃い霧の中を歩くことなど容易い。そよ風の音が美しく反響する岩壁、足元に揺れる花、そ…

綿毛

机に敷いた紙の上に、ピンセットでそっとタンポポの綿毛をひとつ乗せる。紙に描かれた紋様の上にぴったり合わせて。 息をひそめてそっと、そっと。 しかし無情にも、そのひそめた息で綿毛はふわりと浮かび上がり、紙の上から机の隅にたまった埃の上へと転げ…

母岩草

殻からトゲの生やしたそれは、ウニでも木の実でもなく、水草の浮きだ。 生まれたてのころは水面にぷかぷかと空洞を浮かべているが、10年20年とかけて少しずつ水中のミネラル分を吸収していく。 そしてそれはキラキラ光る結晶となって、空洞のなかに育ってい…

標本箱の中の音

今日の研究室に流れているのは、今年の春に左の研究員がおもむろに作って録音した「標本箱の中の音」という曲だ。 もちろん虫でも入ってこない限り、標本箱の中に音など流れていない。 だが覚えているだろうか、研究員は以前に静かな空気が増す音を発見し、…

昨日おとといと博士の薄気味悪い趣味……趣味?についての話であったので、今日は気分を変えて研究室のペットを紹介しよう。 ドラゴン、と呼ぶにはどうにも覇気がない、竜の雛である。主食は林檎。 もう丸2年は飼っている気がするが、まだ雛である。 なにせ竜…

目玉

封印札といえば、博士が七夕の度に描いている奇妙な短冊のことを思い出す。 何か大きな目玉のついた生き物のようなものだったり、紙いっぱいの禍々しい紋様であったりと、呪いの札のようなものばかりで全くもって願いなど叶いそうもない。 「なんです、それ…

封印

研究室やその奥の標本室の片隅には、博士によって封印された包みが転がっている事がある。 なぜ封印されたのかも、何が入っているのかも不明な包み。なにやらお札のようなものが貼り付けられ、紐でぐるぐる巻きにしてある。 時折、札を突き破って奇妙なトゲ…

左の

左の研究員は、学者というより芸術家といった方が良いかもしれない。 すぐ興味を持ち、深く考え、専門書をあさり、そして飽きる。 おもむろに新しいことを思いつき、おもむろに作曲を始める。 専門書だけでなく小説も好むが、恋愛ものは除く。 少しでも色気…

右の

右の研究員は、学者というより職人に近い精神構造をしているかもしれない。 理論よりも技術について検討することが好きだ。 慎重に丁寧に調整したり、複雑なものを組み立てたりすることが好きだ。 ついでに言えば、たくさん集めて並べるのも好きだ。 そうや…

夏の間の冬

いつもとちょっと違う角を曲がったら一面の銀世界に入り込んで、もみの木に静かにイルミネーションが光っていて、「夏の間、クリスマスはここで休んでるのか」と思った夢を見た。 あの日見た夕焼けの色だとか、さっき消えた虹だとか、そういった不確かなもの…

お茶の時間

研究室では、頻繁にお茶の時間が設けられる。 遺跡担当の研究員……長いので「右の研究員」とでも呼ぼうか、右利きだから。彼はコーヒー。挽きたての豆は至高の香り。できればミルク多めが好ましい。 植物担当の同僚「左の研究員」はハーブティー。花か葉っぱ…

種護

研究員の入り浸っている遺跡の近く、「森」の中でもいっとう日の当たる場所にその木はある。 「太陽の樹」である。 詳細はまたいずれの楽しみにとっておくとして、その木の種はかつて「花の遺跡」がうつくしい「花の街」だったころ、とてもとても大切にされ…

影の標本

「影を標本にする」という試みを最近始めた。 影とは即ちその周囲と比べて光の当たっていない部分のこと。 つまり、そこに何かがあるのではなく、そこに何かが「ない」のである。 それは、花が落とす繊細で美しい影を保存するというだけではなく、「ないもの…

種、そして花

種花、という花がある。 タネハナ、ではなくシュカ、である。 研究室の試験管の中でしこたま培養されている。 画像の中で、根元が黒っぽい種になっているものがそれである。 葉もなく、根も出さず、種からスッと茎と花だけが伸びるが故に「種花」。 「根も葉…

木の葉 それは雪に覆われていない季節ならば大抵いつでも目にすることができる。 青葉 都会のど真ん中でも、1枚くらいは簡単に手に入れることができる。 若葉 しかしあなたは、それを手にとって心ゆくまで眺めたことがあるか。 日に透かし、生命そのものの…

飴、という言葉は私にとっていくらか新鮮だ。 研究員は一人思う。 物心ついた頃からあのキラキラした菓子のことはキャンディ、と呼んでいた。 しかし、「これ」はやはりどうにも「飴」なのだ。キャンディという響きの軽やかさとは少し違う、とろりとしてもっ…

この樹の高さを測るために測量を覚えるかどうか、しばし天秤にかける。 どれくらいあるだろうか。 遥か遠くでチラチラと揺らぐ梢を見上げて研究員は考える。 そういえば、東京でスカイツリーを見たときに同じくらいの高さだろうかと思ったことを思い出した。…

地下遺跡

砂埃を慎重に避ける。 ランタンの光を当てると少しキラキラとする砂埃。 柔らかい筆を使って慎重に、慎重に。 はっと息を飲んで研究員は細い竹のピンセットを取り出した。 砂埃の中から、小指の爪の先ほどの小さなかけらをつまみ上げ、明かりにかざす。 ピン…

研究室

ぽたり、ぽたりと水の滴る小さな音が聞こえる。 それが余計に、研究室内が静けさに包まれていることを意識させる。 音が加わることでより静かに感じるとは、不思議なものだ。 スポイトを手にした研究員はしばし手を止めて物思いにふけった。 これを「静けさ…