森のなかの標本室

不思議な標本を作るアートユニット「飴色団栗研究室」にまつわるちょっとしたおはなし

霧の谷

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ここにはいつも濃霧が立ちこめている。

 

谷の景色がぼんやりと幻想的に浮かび上がるような日もあれば、伸ばした腕の先が霞むような日もある。

 

だが、我ら霧の民にとって濃い霧の中を歩くことなど容易い。そよ風の音が美しく反響する岩壁、足元に揺れる花、そういった僅かな気配があれば、視界などさほど必要ではないのだ。

 

だが「博士」と名乗る一行はそうもいかないなしい。

 

歩くのが遅い。

段差でつまずく。

壁に向かって進もうとする。

 

全く呆れたものだが、頭はそう悪くないらしく、話せばなかなか面白いので気に入っている。

 

それから……彼らが毎回持参する霧のような雲のような甘い菓子を楽しみにしているというのも、あるが……これは内密にしておいてほしい。